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★★★★ 著者: 小川洋子 出版社: 新潮社 元数学者「博士」と、「博士」に雇われた家政婦「私」と、その息子「ルート」の物語。博士は数学と阪神タイガース（というか江夏豊）をこよなく愛する人です。交通事故に遭い、それから８０分前までのことしか覚えていられなくなりました。交通事故の前の記憶ははっきりと残っているのですが、それからの記憶はありません。なので、博士は体中に大切なことを記したメモを貼り付けています。彼は数学を大切にし、いろんな場所から美しい数式を見つけます。最初、「私」はそれに戸惑いますが、じょじょに博士という人のことが分かって来るようになります・・・ 第１回本屋大賞を受賞し、有名になった作品。 ほんわかとしています。明るいです。しかし、記憶を喪失していく博士の姿は少しだけ物悲しいです。しかも病状は少しずつ悪化していきます。いつか、博士が壊れてしまうことはすでに決まっているのです。だから余計に、ジーンときます。 人間は誰でも死ぬものだけど、博士はいつでも死を抱え込んでいるといっても良いのではないかと感じました。以前の自分との繋がりがあるからこそ、自分が成り立つわけです。それなのに、博士は「８０分前までの記憶」と「事故前の記憶」しか持っていません。つまり、過去の自分と今の自分との間に、断絶があるわけです。とても怖いことだよなぁと感じます。 しかし、博士は飄々としています。そして、世界の中から数式を見出し、数式の美しさを語ります。だから感動的です。ファンタジーかも知れないけど、素晴らしいと感じます。 あとで読んだ『サウスポー魂』で投手・江夏豊の半生を知りました。凄い人だと感じました。 ２００４年第１回本屋大賞、第５５回読売文学賞受賞作。映画化もされています。 |