『レベッカ』　ダフネ・デュ・モーリア著

Togaidai Shimbun　by キノ

　蒸し暑い日が続くこの頃、思わず背筋が寒くなるこの小説はいかがだろうか。

　舞台は1930年代のヨーロッパ。ヒロインが、かつて暮らしていたマンダレーを回想する場面から物語は始まる。

　若く平凡な女性だったヒロインは、中年に差し掛かった紳士のマキシムに恋をし、程なくして結婚。彼の屋敷があるイギリスの片田舎、マンダレーへと移り住む。しかし、彼女を待ち受けていたのは、新しい女主人を頑なに認めようとしない家政婦、ダンヴァース夫人の冷酷な仕打ちと、その死後も屋敷に色濃く残る、前妻、レベッカの影だった。感受性の強いヒロインは次第に追いつめられてゆくが、マキシムが抱える重大な過去が明らかになり……。

　マキシムを助けるため、ヒロインが取った行動は道徳的とは言い難い。だが、頼りなかったヒロインが夫を守ろうと成長してゆく姿に、思わず応援したくなってしまう。

　特筆すべきはダンヴァ―ス夫人の存在だ。異常なほどにレベッカを愛し、崇拝する彼女の情念はどこへ向かうのか。その末路を知った時、読者は恐怖を噛みしめるとともに、この物語の真の勝者は誰だったのかと考えずにはいられないだろう。

　七十年以上も前に書かれた小説だが、その見事な人物造形は少しも古びていない。2008年に新潮文庫から新訳が出されており、また”penguin readers”のシリーズにも原作を英語学習者向けに改訂したものがあるので、ぜひ手に取って頂きたい。

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