『ロシアは今日も荒れ模様』　米原麻里著

Togaidai Shimbun　by キノ

　飛行機でも船でも、決して行けない旅行へのチケット――そう形容したくなるロシア見聞記である。

　

　エリツィン出世の陰にあったのは、ロシア名物の○○だった!?　ロシアの壮絶すぎるトイレ事情とは……などなど、思わず目を疑い、吹き出してしまうエピソードが満載だ。ロシア語通訳者である著者の語りは歯切れよく、彼女一流のジョークが読者を惹きつける。

　だが、本書は決して笑えるだけのエッセイではない。「第三章　その前夜」にはその切り口の鋭さが、最も顕著に表れていた。

　この章では、1990年夏のモスクワで、多様な階層の国民が、崩壊寸前のソ連を語っている。率直な声からは、歴史的な革命へと向かう、民衆の熱気が立ち上ってくるかのようだ。恐らくは今モスクワに向かったとしても、その空気を味わうことは叶わないだろう。今は亡き著者の筆を借りて、私たちは、変革の予兆と躍動感に満ちた、当時の都市を旅することができるのだ。

　一般人には窺い知れない、権力者の素顔を垣間見られるのも、同時通訳者の彼女ならでは。　特にロシア好きではない私のような人間にも、かの地のことをもっと知りたいと思わせる、そんな一冊だ。

　余談だが、この本には、東外大関係者で知らない者はない（はずの）「あの方」が登場する。気になる外大生の方はぜひ、大学生協購買書籍部の文庫コーナーへ。

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