『あんじゅう　三島屋変調百物語事続』　宮部みゆき著

Togaidai Shimbun　by キノ

　百物語――数人が集まり100本の蝋燭を立て、順に怪談を語りつつ、一話終わるごとに一本消してゆく遊びだ。だがこのシリーズでは、少しばかり勝手が違う。

　主人公のおちかはある事件を引き起こして故郷を離れ、叔父の店、三島屋に身を寄せた少女。自責の念で心を閉ざし、世間からも遠ざかっていたが、叔父の勧めで百物語の聞き役を務めることになる。語り手は一度に一人、聞き手もおちか一人だけ。客と向き合い、不思議な話を聞くうちに、彼女の心情に変化が生まれ……。

　怪異譚ではあるが、作中の人ならぬもの達は怖いというより愛らしい。表題作の「あんじゅう」は、人の傍にはいられない定めでありながら人を慕い続ける生き物、「くろすけ」と老夫婦との交流を描いた、切なくも温かい物語だ。儚い命の純粋さといじらしさが胸に迫る。

　むしろ本当に恐ろしいのは、ごく普通の人々のほうである。憎い、悔しい、あいつさえいなくなれば……。誰もが抱きうる暗い感情は周囲を蝕み、やがて己自身をも飲み込んでしまう。まさに「人を呪わば穴二つ」。真の闇とは人の思いから生まれるもの―そう言い放つかのように、著者の筆は容赦なく人の心の暗部を抉り出す。

　しかし、闇があってこそ、光はその輝きを増すもの。客との語らいを通じ、そうしたこの世の清濁を学びながら、おちかは少しずつ自分の世界を広げてゆく。その中で増えてゆく登場人物達も、皆それぞれに魅力的だ。人気作の続編だが、単体でも十分楽しめる。

　百物語が終わる時、人は怪異を見るという。果たしてこの役目を終えた時、おちかは何を見出すのか。まだまだ続く物語から目が離せない。

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