『ネットと愛国　在特会の『闇』を追いかけて』　安田浩一著

Togaidai Shimbun　by キノ

　ネット上ではどのように差別主義的な思想が広がり、現実での過激な活動団体へと発展するのか。近年話題となっているこの問題を考える際、本書も参照してはどうだろう。

　本書が取り上げる、「在日朝鮮人の特権を許さない会（通称：在特会）」とは特別永住資格や通名制度などを「在日朝鮮人の特権」と見なし、その廃止を目的として、街宣活動や総会を行う保守系市民団体である。ネット掲示板等でリベラルな思想や外国人などを攻撃する「ネット右翼」がその母体で、動画投稿サイトを通じて飛躍的に運動を拡大した。

　著者は在特会の主張の正当性を検証し、日本の旧宗主国としての責任についても触れた上で、在日朝鮮人は日本人が羨むような特権的立場にはないと指摘する。見えてくるのは、偏った情報に踊らされて疑心暗鬼に陥り、主張を同じくする集団に閉じこもって、異質な存在を排撃している人々の姿だ。だが、そのほとんどは普段は普通の会社員であり、普通の若者である。何が彼らをそのような行動へと駆り立てたのか？

　著者はこのテーマを論じる上で、在特会会員の排外的な言動に対しては一貫して批判的な立場だ。一方、彼らがそのような言動を取ってしまう心理については一定の理解を示している。そのようなスタンスには賛否が分かれるかもしれない。だが一年半の取材に基づき、丹念かつ明快に書かれたノンフィクションは一読の価値あり。　

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