リュウ、セイコ、コウは急いで職員室へ向かおうと薄暗い廊下を早歩きしていた。

「やぁ、レッド・・・君、そしてその他諸々の諸君。」
リュウは、いきなり物陰から現れた山ヶ原に言われ、ゾクッとした。
「職員室へ行こうというのかね？ならばその必要は無い。」
山ヶ原の顔からスーッと生気が消え、目がどこまでも続く闇のような黒になった。

「どこまでも光は光であり続けるのなら、我々もまた同じこと！闇であり続けようぞ」
いつも英語を優しく教えてくれた「山ヶ原さん」ではもういなかった。
「健闘を祈るよ」
いきなり爆発が起こり、黒い煙が廊下中を占めた。

リュウは赤い宝石を思い切り掲げた。赤い光が閃く。

そのとき赤い戦士が現れ、煙を切り払った。誰もいない。
その時また爆発が起こり、黒と灰色を基調として醜く歪んだ肉体の人ならざるものが立っていた。まるで悪魔だ。
「やぁ、あの二人の子どもは貰っておく。君が職員室までたどり着けば、帰す」
「本当か？」
「信じるしかなかろう、今のお前は」

「なら・・まずお前を倒す」
レッドのパンチがうなりをあげ、悪魔の胸に飛んでいった。
黒い翼が跳ねてパンチを弾き返した。レッドはよろめいた。 その時、羽が千切れ飛んで次々爆発が空間を切り裂いて生まれ出た。
まるで羽がその空間を支配しているようだ、
赤い戦士は何百もの傷を負って飛びのいた。
ぱらぱらと羽が落ちた。

「まだまだだな」
「いや。戦うぞ！」
リュウは朦朧として壁にもたれ掛かり、呟いた。そしてはね跳んでなんとかそこを脱出した。

薄暗い廊下を抜け出して夕日に染まった中庭に出たとたん、変身が解けた。
血が額を伝い、頬を伝い、手を伝い、足を伝い、全身を伝って落ちていく。
「くそ！血が抜けてるってのに、体は重くなってく・・・」
彼はなんとか整備されていない草だらけの地面に寝転ぶと、夕日を目を向けた。
「なんで無謀なことを・・・。みんなをどう、すれば・・・」
だんだん息が荒くなってくる。
全身に痛みが走る。

「無残ね。リュウ」
聞き覚えのある声だ。澄んでいて、澄みすぎていて誰も寄せ付けないような、そんな声だった。
「・・レイか」
「まだ生きる気があるのなら、私に着いて来て」
リュウは恐ろしい全身を駆け回る爆発的な痛みに耐えて立ち上がった。
その目は鋭い。何か、とても使命を帯びているが故に世界を睨まざるを得ないように見える。
「レイ、なぜだ」
「どうして来たかって？それは友達だから」
「違うだろう。レイは『友達』等という言葉は・・信じていなかった」
「・・目が鋭いのね。・・私はこれが正しいと思ったから来た。つまりこの強大な力が」
彼女は黒い宝石を取り出した。
リュウは押し黙ったまま、歩いた。

二人は林の中の洞穴に着いた。コケをまとった石がうまくせり出して入り口を隠しこんでいる。

「中にセイコとコウはいるわ」
「どうしてだ。捕まったんじゃ・・・」
「いや、あの二人も戦ってやられたそうよ。つまり、分断されて各個撃破された。勝てるわけが無い」
耳に痛い言葉だった。リュウはぎゅっと拳を握って呟いた。
「・・・勝たなければ道は無い、な」

白い三日月が浮かんでいる。
夜のとばりが降りようとしていた。


終わり


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第二章　爆ぜる夜