プロローグ

天地を暗闇が包み込んでいた。ただ星のみが凍てついた輝きを放っている。
どこかから風のすさぶ音の聞こえる以外には町は静まっていた。
奴隷以外の全ての者が寝静まる時間であった・・・

「ァ！アォー！」
いきなり薄汚れた奴隷の青年が奇声を上げた。驚きと畏れと、戸惑いが混じった声。
「オオー！」
その声に気付いた服を織る女奴隷が屋敷から現れた。その動作には微かな怒りがこもっていた。
"もしもご主人様を起こしてしまったらどうするつもりだ！"ということだろう。

しかし現れた女奴隷は戸口で立ちすくんだ。
その目には赤い流星がうつっていた。恐ろしいほど爛々と輝いている。
そしてそれは徐々に接近してきているようだ。
恐るべき緊急事態である。

しかしその町の指導者や民衆はそれを死ぬまで知ることはなかった。
奴隷達は危険を知らせることをためらったのだ、もしもたたき起こされ何事もなかったら主人は自分達を半殺しにする・・・
まぁ指導者や民衆らが起こされたとして何かが出来たとも思えぬが。

隕石は墜ちた。
一つのポリスが一瞬で消えた。
また、多くの人命も一瞬で消えた。
焼け野原が広がった・・・

だがある奴隷の男は生き延びた。隕石が墜ちたその場にいたにも関わらず、だ。
血みどろになり、右目が飛び出て、それでも生きていた。

彼は這い進んだ。死体の中を。
"水が欲しい"と自国語で絶叫した。
そしてジュウジュウという音を出している液体に触れた。
その瞬間男は驚異の力を手に入れた・・・・・・


黒いマントを羽織る老人の頭が微かに揺れた。

「オーディン、物思いにふけるとは珍しいですね、何を・・・？」
白いマントで身を包んだ碧眼の少年が言った。その肌は彫刻のように白く、唇はペンキで塗ったかのように赤い。
黒いマントをまとった老人が答えた。
「・・・二千数百年前のことだよ、あの日だ」
「・・・そうですか」
「まぁどうでもいい、我々に過去は不要だ。・・・０.ボイスは動かせたか？」
オーディンと呼ばれた黒いマントの老人の眼光が鋭くなった。

「はい、閣下。条件がかなり不自然ですが」
「何だ？」
「ある日本の児童の誘拐です」
「構わん、それだけでライトを崩せるなら、な。けど要注意だ、無監視を強めろ」
「はっ」
「ロキ、ハルマゲドンは近い」
オーディンは呟くように言うと目を閉じてしまった。


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